そびえる岸壁
トレーシー入江 アラスカ 2015
5 x 7 in / 12.7 x 17.8 cm / Open Edition
8.5 x 11 in / 21.6 x 27.9 cm / Open Edition
13 x 19 in / 33 x 48.3 cm / Open Edition
16 x 24 in / 40.6 x 61 cm / Open Edition
20 x 30 in / 50.8 x 76 cm / Open Edition
僕は確かにその風景を見て、心を乱した。静かに入江を航行する船の上で、静止したまま落ち着きを失った。その見たものといえば、しかし、ただの岩の壁である。
岩塊は、ちょうど渓谷を成すようにして対岸にも似た絶壁を持ち、深い谷をきざむ双璧として屹立している。岩壁は、何万年にもわたり進退を繰り返してきた氷河によって削られたもので、なめらかな表面をもっている。この滑らかさは、崖の上から地に届く高さにまで至っており、それは、失われてしまった膨大な時空を暗示していた。
その崇高さは、宇宙のひろさを、たとえそれが捉えきれないものであると知っていても、星図をみながら捉えようと努力するときに生じる、あの圧倒される永遠性の感覚に似ている。そしてその努力によって生じた感覚は、自分の世界を押し広げて見せるような、自由で喜ばしい感覚をも同時に喚起するのであった。
あるがままの壮大な自然と、人間の内なる自然とをつなぐ糸には、直感で一掴みにはできない、なにか偉大なものが隠されているのかもしれない。アラスカの自然景観が僕自身を凌駕し、謙虚にさせる傾向へと押し進めていたものが、おぼろげながら見えてくる…。
動揺の響きが鳴り止んだあとでも、この巌となった岸壁の風景は、僕を圧倒し続けている。
中島たかし「人と生きものとの狹間」より抜粋
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