Lynx in Winter

極寒の地に オオヤマネコを追う

進行中プロジェクト 中途レポート

 
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オオヤマネコ
カンジキウサギ
- 旅の目的 -

なぜオオヤマネコを撮影対象にしているのか。それは動物の食う食われるのナマの関係を、この目で見るためだ。

そして想像する限り、雪原にオオヤマネコが獲物を追うシーンは、もっとも強く極北のイメージに結び付けられる。

アラスカ内陸地方の冬は、零下30℃を下回る。晴れた日は、陽光がさすにもかかわらず、放射冷却によってマイナス40度に達することもある。そんなとき外で行動できるのは、肉体的にも写真機材としても、ほんの数時間が限界だ。

なぜこんな極地に、オオヤマネコは生きることを選んだのだろうか。これは、僕がアラスカに渡るまえに、自分で答えを見つけ出したかった大きな疑問の一つだった。

その回答は、オオヤマネコとカンジキウサギの関係にある。

人前に姿を表さないオオヤマネコは森のゴーストと呼ばれる。僕はアラスカの隠された自然の姿を見るため、セントエライアス国立公園へと足を運んだ。

 
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ランゲル・セントエライアス国立公園

カナダとの国境に接しているランゲルセントエライアス国立公園は、ユネスコ世界遺産の一部に登録されており、アメリカ最大の国立公園で、四国と九州を合わせたほどの面積を誇る。それだけ広大な土地に、人間のつかう道路が2本、全長約100Kmのみという、原始自然を保ち続けている場所である。

なかにはアラスカの先住民が住む集落がある。彼らはひっそりと、いつ行動しているのかわからないくらいに静かに暮らしている。ときにはヘラジカを狩り、オオヤマネコやカンジキウサギを獲って、毛皮を売りながら生きている人たちもいる。

 
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オオヤマネコの足あとを追う

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オオヤマネコは、人間がつくった歩きやすい道路を使う。

撮影地に選んだランゲルセントエライアス国立公園の北側には、先住民の村に続く60Kmの未舗装道路が一本ある。

上のマップは、オオヤマネコの足あとをGPSを使って記録したもの。このときの記録は、彼らがどのように道路を利用するのかを調べていた。

2年半の調査により、オオヤマネコの行動パターンが明らかになった。雪が降ったあと数日はまだ柔らかく、体が埋まるために歩きにくい。それで彼らは定期的に除雪が入る道路を頻繁に使う。時間が経ち、雪面がクラストして固くなると、歩いてもまったく沈まなくなるので、あまり道路を使わない。

Ghost in the Forest

オオヤマネコの夜のすがた

 
 
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オオヤマネコ - Lynx -

オオヤマネコは、夜行性の動物と言われるが、ここアラスカのランゲル・セントエライアス国立公園に生息するオオヤマネコは薄暮性、つまり日の出と日没の前後によく行動をする個体が多い。その行動時間は、彼らの獲物となっているカンジキウサギに影響を受けている。

オオヤマネコが狩る動物の90%がカンジキウサギであるため、カンジキウサギの数が減ると、オオヤマネコの数も減退してゆく。これは自然の正常なサイクルであって、オオヤマネコの数が減れば、つぎにカンジキウサギの数が増えるので、どちらの種も、自然に消滅してしまうということはない。

2018年が、その10年サイクルのピークの年であった。つぎに数がピークに達するのは2027年と考えられている。

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カンジキウサギの毛

カンジキウサギの毛色の変化は、日照時間の変化による。彼らのなかの体内時計(サーカディアンリズム)が、換毛期を知らせるのだ。

写真のカンジキウサギは秋の冷えた新雪の日、10月半ばに撮影した。夏毛の姿だが、毛が生え変わるのは、周囲の環境色ではなく、日照時間が短くなってからなので、急な対応はできない。

ここが、オオヤマネコにとっては捕獲のチャンスとなる。

視覚に頼って獲物をさがすオオヤマネコにとって、見つけやすい対象となってしまう。面白いことに、それで10月の雪の日は、オオヤマネコが活発に動き回る。

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カンジキウサギが姿を現すのを待ち続けるオオヤマネコ

カンジキウサギが姿を現すのを待ち続けるオオヤマネコ

僕は、それなりに自分の忍耐力には自信があった。極地でも長く撮影していられる体と知恵を身につけたと思っていたからだ。しかし、オオヤマネコを観察していると、僕の忍耐力というのがたいそう情けなく感じてくる。それは彼らが獲物をとらえるために待ち続ける時間が、半日にも及ぶからだ。そのあいだずっと、音も立てず、ただただいつ来るかわからないカンジキウサギを待つのである。彼らは単に走って追いかけ回すよりも、こちらの忍びのスタイルのほうが、成功しやすいことを知っている。

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極北の冷気を吸いながら…

この記事を書いている時点で、僕はまだ、最大の目的を達成していない。だから、中途報告と記した。

オオヤマネコがウサギをハンティングしているシーンを目の前で見たい。これこそが極北の動物誌に大きな1ページを加える。そして、これをうまく写真に収め、この動物の運動能力の凄さを伝えたい。あと、もう一歩。ちょっとした何か1つの手があれば、そのシーンを撮影できるところまでは来ている。

“Thinking is more interesting than knowing, but less interesting than looking.”

「考えることは、知ることより意義深い、がしかし、見ることはそれにまさる。」

これは撮影活動において、僕がもっとも重要視している信念である。

現場で見て体験しないかぎり、僕たちは何を知ることができるだろう。危険な地であってもできるだけの準備をして、現場に身を投じる。切り裂くような冷気を、肌で感じながら動物の生き様を見るのだ。

オオヤマネコとカンジキウサギの10年のサイクルが来年2021年春に終りを迎え、この地での撮影のラストチャンスとなるだろう。逃せば2027年までは、チャンスがない。

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